前回触れた新しい道塾のコンテンツ(メールマガジン)『受験の道草』、なかなか好評のようで、登録者も急速に増え、感想もいくつか届いてる。このブログへのコメントを含め、その多くに返信できないのが申し訳ないなと思いつつ、嬉しく読ませてもらってます。ありがとう。
今日の『道草』は、75年の時を経てエベレスト山頂付近で遺体が発見された登山家ジョージ・マロリーの話。「なぜ、エベレストを目指すのか」という質問への彼の答えは「Because it is there.(そこに山があるから)」。
『道草』は受験生向けのコンテンツなので、そこでは山に登り切るまでの話しかしなかったけれど、個人的にはその先がある。
だいぶ昔に読んだのでうろ覚えだが、漫画『バガボンド』で武蔵が高くそびえ立つ岩山を登っていくシーンがある。下から見上げる頂は遙か雲の上。垂直に切り立った岩肌を武蔵は一掴みずつ登っていき、ついには雲を超えて頂上へたどり着く。そこで目に入る光景は、より高い山々の連なり。そして武蔵は笑う……。
天下無双と思うのも束の間、自分はまだまだちっぽけな存在だと武蔵が気づくのを比喩的に表現した場面。第一志望に受かった受験生もまた同じような思いをするだろう。僕もまた自分の小ささを思い知る日々だ。
でも、それはそういうものなのだと思う。
僕らはまだ見ぬ山頂へ向かって、永久に登り続ける生き物なのだ。山頂だと思った場所にたどり着いた途端に、すぐ次の山頂が見えてくる。そうした生において大切なのは、山頂にたどりつくことよりもむしろ、登ることそれ自体に喜びを感じること。
ただ。
誰にだってある初めて出会う「山」をどう登るのかは、その後の人生をいくらか決定づけると思う。僕にとって初めての山は、少なからぬ受験生と同じく確かに受験だったけれど、実はその前に小さな山に登っていた。
それが以下の話。『受験はゲーム』から削った部分で、ちょうど8年前の今頃、僕がはじめて登った小さな山について。
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とにかく何か熱いことをやりたい。できることなら世界一や日本一になるようなことをやってみたい。そうやって自分を変えなければ未来は真っ暗だ。
そんなことばかり考えていたが、単なる引きこもりの少年がいきなり世界一になれることなんてあるわけもなかった。
だから、とりあえず日本一になろうと思った。それなりに大変で、かといって不可能なことではない日本一・・・・・・。そうして考えた末に、ひとつのアイデアが出てきた。
そうだ、富士山に登ろう。
いま考えれば笑ってしまうくらい安易な発想だけれど、でも、当時の僕にとっては結構な挑戦だった。山になど登ったこともなかったし、そもそも街から出ることもほとんどなかった。実際、家族も引きこもりがいきなり富士山に登れるわけがないと言っていた。
でも、僕にはひとつの考えがあった。
自分自身が日本一にはなれなくても、日本一の場所に登ったという記憶は一生残るだろう。18歳になる前の夏に、そういう記念を一つくらい残しておくことは何かに繋がるはずだ。
そう思って、僕は近所に住むよく同じネットゲームをしていた友人を誘って富士山に登ることを決めた。
ネットで調べると夕方から登りはじめて、山小屋で仮眠してから頂上を目指し、ご来光(山頂での日の出)を見てから下山するといいと書いてあった。
僕らはネットで調べた日の翌日、さっそく電車で富士山へと登った。5合目までバスで行き、そこから登山客の少ない登山ルートを選んで、二人で黙々と歩きはじめた。
男二人で特に喋ることもなかったから、僕らは歌をうたった。当時流行っていたポップソングだったが、満点の星空の下で、日本一の山を登りながら全力で歌をうたうことに、久しぶりの喜びを感じていた。
途中の山小屋での仮眠から起きると、もう午前2時を回っていた。標高も高いので、冬の寒さ並みに冷え込んでくる。
そんな中でも若さゆえの体力もあったのだと思う。まったく疲れを感じることなく、一気に頂上まで登りつめた。そして明け方のご来光を待った。
地平線がうっすらと明るみ、眼下の景色が見えはじめる。黄金色に輝く太陽の上辺が見えると、待っていた人たちから拍手が上がった。僕も自然と同じように拍手をしていた。
拍手をしたのなんて久しぶりだった。
いま振り返れば、あの拍手はご来光の素晴らしさを讃えるのだけではなしに、ここまで登ってきたこと自分へのねぎらいと、これから先に待ちうける自分の未来への応援とをしていたのかもしれないと思う。
単なる思いつきで登った富士山だったが、家族に「よく登れたね」と言われたことをはじめ、自分でもよく登れたなという思いと、意外とやればできるものだという実感を得ていた。
それが、次の一歩を踏み出させる原動力となった。
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誰もがいきなりエベレストを目指せるわけじゃない。まだ「大きな山」に登る自信がないのなら、「小さな山」から登ればいい。少しずつ、登れる山の高さは高くなっていくから。
追伸:おかげさまで『受験はゲーム』は多くの人に読んでもらってる。ネット書店では大方売り切れ。こちらも多くの感想をもらってます(返せなくてごめんよ)。最後までしっかり読んでくれたこと、感謝してます。
追伸2(受験生へ):読み終えた受験生と話していて思うのは、僕の本を読んで終わりにしている人の多いこと。読んで満足して終わりにするのは、勉強して復習しないのと同じ(この一文を本の中に入れなかったことを悔やんでる)。内容は基本的な勉強法に過ぎないけれど、これを全て自分の中に取り込めれば、後は自分なりに試行錯誤しながらやるだけだと思うよ。時々は見直して、夏を乗り切ってくれ。
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1 Comment:
なんだか読んでいて自分へのメッセージのように感じました。
この夏は、自分にとっての高尾山を見定めて、一歩踏み出し、今の自分から突き抜けたいと思います。
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