2008年10月6日

大丈夫です。


 先日、ある大学のセンター長も務める精神科の先生にお会いした。僕が高校に行かなくなった時期に、存在すら知らなかった大検の取得を勧めてくれた恩師でもある。僕は今までに2回、精神科の先生にお世話になった事があるが(10歳頃と、17歳頃の2回)、いずれも母に無理矢理つれていかされたものだ。

 その時も、僕を心配していた母の希望に沿う形で診察室へ出向いた。当人は「大丈夫なんだけどな」と思いながらも、ただでさえ心配性の母を不安のどん底に陥れているダメ息子として、せめてもの罪滅ぼしにという理由で。

 診断結果は、「元気ですね。大丈夫です。」という予想通りのものだった。当時の僕は「そりゃそうだろ」と思っていた。その後の僕の人生が本当に「大丈夫」なのかは意見が分かれるところだろうが、僕なりには道を歩んでこれたと思う。なにより安心したのは僕の母だった。今では母と飲みながら「精神科に連行されたよね」と叩ける軽口もある。そういう意味で、あの診断は意味あるものだった。

 それ以来、7年ほど僕から先生に何の連絡もせずにいた。そんな非礼にも関わらず、先生は最近の僕の仕事の話を熱心に聞いてくれた。研究だけでなく、日に 100人を超える患者を診てきた臨床医としての経験から、発達障害と学習障害(LD)に関する見解や、僕が仕事をしていく上でのアドバイスをいただくこともでき、とても有意義な時間を過ごすことができた。

 今までの僕は、自分の経験と本から得た知識とで日々を乗り越えようとしてきた。それに限界があると気づいた最近は、その世界でプロとしてやってきた人に話を聞くことが多い。限りなく起こる問題と長年向き合ってきた人の経験談を聞くと、その姿勢に頭が下がる思いになるのと同時に、自分の未熟さに思い至ることができる。

 世の中には、見えないところでたくさんの人の努力が働いている。過去を振り返れば、僕自身もその中で育まれてきたのだろう。もっとたくさんの人々に会い、学んでいこう。そして、僕自身が受けた恩を、何らかの形で返していけたらいいと思う。


 【フォト】 スペインバル、Vinulsにて。